特定派遣のようなSESを続ける会社が、今すぐ危機感を持つべき理由
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特定派遣のようなSESを続ける会社が、今すぐ危機感を持つべき理由

はじめに

「特定派遣みたいなSESをしている会社は、そろそろ危機感を持ったほうがいい」。これは少し強い言い方に聞こえるかもしれません。しかし、IT業界で長く客先常駐の現場を見てきた人ほど、この言葉にまったく違和感はないはずです。

契約書には「準委任」「業務委託」「SES」と書かれている。ところが実際の現場では、顧客企業のPMがエンジニアに直接タスクを振り、優先順位を決め、進捗を確認し、残業の相談までしている。こうした状態は、名前こそSESでも、実態としては旧来の特定派遣にかなり近い働き方です。

もちろん、SESそのものが悪いわけではありません。問題は、SESという言葉を使いながら、実態としては「人を出して、客先に動かしてもらうだけ」のビジネスになっていることです。この記事では、特定派遣とSESの違いを整理しながら、なぜ今のSES企業が運用を見直すべきなのかを考えていきます。

特定派遣とは何だったのか

特定派遣とは、正式には「特定労働者派遣事業」と呼ばれていた制度です。派遣元企業に常時雇用されている社員を、派遣先企業に派遣する仕組みでした。

IT業界では、正社員として雇用したエンジニアを顧客先に常駐させ、顧客企業のプロジェクトで働いてもらう形がよく見られました。派遣契約であるため、派遣先企業がエンジニアに直接指揮命令できる点が大きな特徴です。

しかし、この制度は2015年の労働者派遣法改正で廃止されました。経過措置を経て、現在は特定派遣と一般派遣の区別はなくなり、労働者派遣事業は許可制に一本化されています。

表向きの理由は、労働者保護や派遣事業の適正化です。ただ、実務的には、届出だけで派遣事業を始められたことにより、小規模な人出し会社が増えすぎたことも大きな背景だったと考えられます。案件が切れると社員を抱えきれない会社、教育やキャリア形成を現場任せにする会社、実態として不安定な雇用になっている会社も少なくありませんでした。

SESと特定派遣の違い

SESは法律上の正式な契約類型ではありません。一般的には、システム開発や運用保守などの技術支援を行う準委任契約として扱われることが多いです。

一方、特定派遣は労働者派遣でした。最大の違いは、誰がエンジニアに作業指示を出すかです。

観点SES旧特定派遣
法的な位置づけ主に準委任契約として扱われる労働者派遣事業
指揮命令SES会社側が行う必要がある派遣先が直接行える
契約の本質技術支援や業務支援労働力の提供
客先常駐あり得るあり得る
問題になりやすい点実態が派遣に近い場合現在は制度自体が廃止

この表だけを見ると、SESと特定派遣は明確に違うように見えます。しかし、現場実態を見ると、両者の境界はかなり曖昧になりがちです。

たとえば、顧客のプロジェクトルームに常駐し、顧客の朝会に参加し、顧客のチケット管理ツールでタスクを受け、顧客のリーダーに進捗を報告している場合、外形的には派遣とほとんど変わりません。契約書上はSESでも、実態として顧客が直接エンジニアを動かしているなら、派遣性を疑われても仕方がないのです。

「契約書上は準委任だから大丈夫」は危うい

IT業界では、「契約書はちゃんと準委任になっているから問題ない」と考えている会社があります。しかし、これはかなり危うい認識です。

労働者派遣か請負・準委任かは、契約書のタイトルだけで決まるものではありません。実際に誰が業務の進め方を指示しているのか、誰が勤怠や残業を管理しているのか、誰が作業者を評価しているのかといった実態で判断されます。

特にリスクが高いのは、次のような現場です。

  • 顧客がエンジニアに直接タスクを割り振っている
  • 顧客が作業の優先順位や進め方を細かく指示している
  • 顧客が残業や休日対応を直接依頼している
  • 休暇取得について顧客の承認が実質的に必要になっている
  • SES会社側の管理者が現場におらず、管理実態がない
  • 顧客が面談で実質的に要員を選別している

このような状態では、契約書にどれだけ立派な文言を書いても、現場実態とのズレが問題になります。むしろ、契約書と実態が違うこと自体が、リスクを大きくしてしまいます。

なぜ今後さらに厳しく見られる可能性があるのか

SESに対して、今すぐ特定派遣と同じような一律廃止が行われる可能性は高くないでしょう。SESはあくまで実務上の呼び方であり、準委任契約そのものはIT業界に限らず幅広い業務で使われているからです。

ただし、「実態が派遣に近いSES」については、今後さらに厳しく見られる可能性があります。理由は大きく三つあります。

一つ目は、人材不足を背景に、客先常駐型のエンジニア調達が広がりすぎていることです。発注側にとっては便利ですが、責任の所在が曖昧になりやすく、エンジニアのキャリア形成も現場任せになりがちです。

二つ目は、多重下請け構造です。元請け、二次請け、三次請けと商流が深くなるほど、誰が実際に管理責任を持っているのか分かりにくくなります。現場のエンジニアから見ると、自分を評価する会社、指示する会社、契約している会社がバラバラになってしまうこともあります。

三つ目は、フリーランスや個人事業主を含めた働き方の変化です。企業が個人に業務委託する場面が増えるほど、契約形式と実態のズレは社会的にも注目されやすくなります。

SES企業が今すぐ見直すべきこと

SESを継続するのであれば、単なる「人月商売」から脱却し、技術支援サービスとして成立させる必要があります。そのためには、まず現場運用を見直すことです。

顧客からの依頼は、自社の責任者やリーダーが受ける。自社側で作業内容を整理し、エンジニアに指示する。勤怠、休暇、残業、評価、教育は自社が責任を持って管理する。この基本を曖昧にしたまま、SESを続けるのは危険です。

また、契約書だけを整えるのでは不十分です。現場の会議体、チャットの運用、タスク管理ツール、勤怠申請、評価面談まで含めて、実態として自社が管理していると言える状態にする必要があります。

顧客にも協力してもらわなければなりません。顧客が個々のエンジニアに直接細かい指示を出す運用を続ける限り、受注側だけで適正化するのは難しいからです。契約前の段階で、指揮命令系統や役割分担を明確にしておくことが重要です。

エンジニアにとっても他人事ではない

この問題は、経営者や営業担当だけの話ではありません。エンジニア自身にとっても、自分がどのような契約構造の中で働いているのかを知ることは大切です。

自社の上司ではなく、客先の担当者だけが自分に指示を出している。自社との面談はほとんどなく、評価も単価も現場任せになっている。次のキャリアについて相談できる相手がいない。こうした状態が続くと、年齢を重ねたときに苦しくなります。

若いうちは現場経験を積めるというメリットもあります。しかし、会社が教育やキャリア形成に責任を持たず、ただ現場に送り出すだけであれば、エンジニアは自分の市場価値を自分で守らなければなりません。

おわりに

特定派遣はすでに廃止されました。しかし、実態として旧特定派遣とほとんど変わらないSESは、今も多く残っています。

繰り返しますが、SESそのものが悪いわけではありません。顧客の課題を技術で支援し、自社が責任を持ってエンジニアを管理し、教育し、キャリアを伸ばしていくのであれば、SESは十分に価値のあるビジネスです。

問題なのは、SESという名前を使って、実質的な派遣や単なる人出しを続けることです。「昔からこうしている」「業界では普通」「契約書上は準委任だから大丈夫」という感覚は、これから通用しなくなるかもしれません。

特定派遣みたいなSESをしている会社は、今のうちに危機感を持つべきです。指揮命令系統、勤怠管理、契約書と現場運用のズレを見直すこと。それが、会社を守るだけでなく、エンジニアを守ることにもつながります。